東京大学医科学研究所附属病院

病院長あいさつ

病院長 藤堂 具紀

病院長 藤堂具紀

 2023年4月に東京大学医科学研究所附属病院の第23代病院長に就任致しましたので、ご挨拶申し上げます。

 医科学研究所附属病院の歴史は古く、北里柴三郎博士を初代所長として伝染病研究所が設立されたのが明治25年(1892年)、その1年2ヶ月後の明治27年2月には早くも伝染病研究所附属病室が設置されましたので、すでに130年近い歴史を有しています。設立当初の主な業務は、伝染病の原因検査、予防治療法の研究、血清痘苗の製造でした。昭和42年(1967年)に医科学研究所への改組に伴って現在の名称となりました。

 当院は現在、国内唯一の国立大学の研究所附属病院であり、そのミッションは、最先端の科学技術と知見を用いて革新的医療を開発し、社会実装することです。3年前から世界は新型コロナウイルスのパンデミックを経験し、いち早くワクチンを製造することの重要性が再認識されましたが、明治・大正時代に感染症に対するワクチン製造を我が国で最初に手がけたのが当研究所です。開院当初より血清療法を行うなど、当院は時代の先端を走ってきました。昭和47年(1972年)には人工臓器移植科が設置され(〜平成10年)、腎臓移植を中心に日本の移植手術を牽引しました。遺伝子治療学において私の師でもある浅野茂隆教授(血液腫瘍内科)が病院長の時代(平成6年〜平成15年在任)には、骨髄移植の研究と臨床応用をいち早く手がけ、現在の臍帯血移植や臍帯血バンクに繋げています。遺伝子治療において遺伝子の運び屋となるウイルスベクターの臨床製剤を大学の病院内で製造することができる施設を日本で初めて設置したのも当院で、現在の治療ベクター開発センターとなっています。日本初のがんに対する遺伝子治療の臨床研究は当院で実践されました。エイズ(AIDS)という未知で致死的な感染症が世界に広がり始めると同時に、当院ではその研究と診療を開始し、現在に至るまで多くのエイズ患者を救っています。私自身は、平成23年(2011年)に当院に赴任して、おそらく正式な標榜科としては日本で初めて脳腫瘍外科を開設しました。ウイルスでがんを治すウイルス療法の臨床開発を推進して、令和3年(2021年)に、脳腫瘍に対しては世界初となるウイルス療法薬(G47Δ)の製造販売承認を実現させました。現時点では、当院は日本で唯一保険診療として脳腫瘍のウイルス療法が受けられる病院です。

 先端医療は時代と共に目まぐるしく変わります。医科学研究所附属病院は、常にその時代の先端の医療開発を担います。脳腫瘍のウイルス療法、消化器や泌尿器のロボット手術、造血幹細胞移植、エイズの最新治療、血友病に伴う関節手術などは現在実践している先端的医療の一部です。一方で、革新的医療開発を推進するには、通常の、あるいは標準とされる医療の技術にも長けている必要があり、当院は高い医療水準を維持し続けています。今後も研究所附属病院だからこそ推進できる先端的医療と地域医療の両輪体制で、皆様と共に病気と向き合い、福祉に貢献して参ります。